大判例

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名古屋高等裁判所 昭和26年(う)1259号 判決

よつて本件記録によれば、昭和二十五年十二月二十八日附起訴状の訴因は、詐欺罪であつたが、昭和二十六年五月七日附で、単純横領罪の訴因が予備的に追加並に変更せられたことは、所論の通りである。刑事訴訟法第三百十二条によれば、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更をすることができるのであつて、検察官がこれを請求したときは、裁判所は、必ずこれを許さなければならないものである。本件において、問題となつているのは、訴因の予備的追加又は変更が、果して、公訴事実の同一性を害しているかどうかにある。訴因とは、通常犯罪の構成要件に該当する事実と解されているので、詐欺罪と横領罪とについては所論の通り、犯罪の構成要件が異るので、訴因が同一であると解することはできないが、それがため、常に公訴事実の同一性を害すると謂うことはできない。本件の公訴事実は起訴状によれば、「被告人は昭和二十五年九月十二日、大垣市御殿町大垣信用組合において、同人の次女原典子名義の定期貯金証書(額面一千二百四十九円六十一銭)を提出し、これが全額払戻を要求し、待合せ中、同組合出納係事務員谷森千鶴子が偶々被告人を岩田吉次と誤信し、同人に支払うべき現金三万五千円を被告人に提供せんとするや、被告人は、自己が受領すべき金員でないことを知悉しながら、受領者のように装つて、右係員を欺罔してこれを交付させて騙取したものである」とあり、訴因の予備的追加並に訴因変更請求書の犯罪事実によれば「被告人は、昭和二十五年九月十二日大垣市御殿町大垣信用組合において、同人の次女原典子名義の定期貯金証書(額面一千二百四十九円六十一銭)の全額払戻を請求したところ、同組合出納係事務員が過失により被告人を岩田吉次と誤信し、同人に支払うべき現金三万五千円を交付したのを、そのまま受領したのであるが、同日肩書居宅において、前記組合事務員奥田武夫より、右事情を聞き、自己が誤つて多額の金員を受領したことを知悉したに拘らず、財布の内容を調査せられたい旨要求せられるや、右金員を自己に領得する目的で、財布は自己の使用人に預けたから今手許になく調査ができないと虚構の事実を申向け、更に警察吏員より追及せられるや、右財布は全部当日大垣の裁判所法廷で何人かに窃取せられたから受領した金額は判明しないと称し、前記金員の返還を拒否して、これを着服横領したものである」と謂うにある。而して右両事実を比較検討して見るに、被告人が、昭和二十五年九月十二日大垣市御殿町大垣信用組合に行つて、同人の次女原典子名義の定期貯金証書(額面一千二百四十九円六十一銭)の全額払戻を請求して、これが払渡を持つて居たとき、同組合出納係事務員が、岩田吉次に支払うべき現金三万五千円を誤つて被告人に渡してしまつたので、被告人は、これを受取り、これを領得したことは、一致して居り、右一致した事実が、本件公訴事実の基本となる事実であることが明らかであつて、詐欺と謂うも、横領と謂うも、その領得の時期と手段方法が異るだけで、右は、右基本となる事実を、刑法の各本条に照し理論構成するについて、相違を来たしたものに過ぎないから、公訴事実の同一性を毫も害するものでないと解することができる。果して然らば、原審が検察官の請求により、右のように訴因の予備的追加又は変更を許し、これに必要な訴訟手続を遂行したことは、適法であつて、所謂のような違法はなく、論旨は理由がない。

同第二点について。

原判決の認定した事実によれば、大垣信用組合の出納係事務員が、岩田吉次に支払うべき現金三万五千円を誤つて被告人に交付し、被告人はこれを受領して保管中、右返還を拒否して着服横領したと謂うにあつて、右現金三万五千円は、被告人に形式的に占有の移転が為されたものであるけれども、その授受の内容に錯誤があるもので、右出納係事務員の真意に基かないで、その手を離れたものと謂うことができるから、右現金は、刑法第二百五十四条に所謂「占有を離れたる他人の物」と解すべきものである。従つて、これを横領した被告人の責任は、刑法第二百五十四条に該当するもので、原審がこれに同法第二百五十二条第一項を適用したのは、法律の解釈適用を誤つたことになる。而して、この法令違反は、判決に影響すること明らかであるから、論旨は結局理由があることになり、原判決は、この点において、破棄を免れない。

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